「鉄は熱いうちに打ちたいが、熱すぎて打てない。」
「触れられない」
1000℃の鉄球がビーカーの中で泡を吹いている。
水は1秒も立たずに沸点になり、蒸気と化す。
視界は湯気につつまれ、晴れたのかどうかも分からないまま白い空間が現れる。
人々がこの空間で黒い服をきて、身振り手振りを行なっている。
窓も植物もキッチンも庭もある ただ全てが煤けている。
私の手もすでに真っ黒でそれは白い空間のどこを触っても色がついてしまう。
掠れたあと、手のひらのあと、足のあと、窓に触れたあと、やかんに触れたあと、
窓の外の庭にはカツオノエボシのような軟体が積み上げられている。逃げ場はない。
遠く向こうさらに向こうの庭、芝生とスプリンクラーの存在、微細な虫がいる。
わたしはどこに熱を忘れてきたのだろう。
計り知れない人々がやってきては去っていく。それを止めることはできない。
あんたを解放する手立てをプラスにしたい
あなたにとって熱いものとはなんですか
赤ワインを飲んだ感触
夕焼けが滲む午後
やかんが沸く甲高い音
宙高く上げられたままのショベルカー
挽いたコーヒーを飲んだ時の充足感
風で飛んでいくビニール袋
人が死ぬその直前の眼
静電気や風の仕業で勝手に鳴る音 ゴースト
お風呂
血のつながりのない人間がもたらす架空の兄弟愛
自然の中で生きる野生の動物の仕草
音楽のBm7とCadd9
一瞬で壊れてしまいそうな繊細なもの
信じて疑わない良く正しいもの
歩いて消耗すること
布団に包まること
ギターが歪み、ベンディングするということ
頭に投げられた石が当たり、思い切り泣くということ
飛行機の中で赤ん坊が思い切り泣き、その後思い切り笑うということ
言葉ではない怒りや呆れや疑問が顔面から向けられていること
オーケストラ
飛行機から見るジオラマのような雲・土地・山
真っ暗な洞窟と松明
照り焼きチキンの皮
午前5時に公園のゴミ箱を漁っていること
電灯が点き出す時間帯に自転車で家に帰っていること
ガードレールが苔むして神聖さを帯びていること
真っさらな庭がベランダにあり、それが心の中であるということ
生まれてきた瞬間を思い出すこと
空に雲ひとつなく、満点の星空が明快に見えること
心臓が動いていること
行ったことのない地に知らない風が吹いていること
知らない異国を思うこと
私の人生がこれ一度きりということ
踏んでいる大地の向こうには深い暗闇と溶岩があるということ
海の中に一瞬だけ泳ぐ大きな魚が見えること
他人の言うことがわかったとき
水面が鏡のように世界を映し出すこと
映画が始まっているということ
映画館で眠るということ
モノリス
亡くなった人の作品が生き続けるということ
生きている動物の毛皮が優しいこと
食べるものが減らないということ
欲望の先に死があるということ
窓から光が差しているということ
機械から素晴らしい音が出ているということ ノイズ含め
景色から虹色が現れること
どんなに願ったり祈ったりしてもよいこと そしてがらんどうの世界があること
一つを信仰すること 人間が大きすぎる塔を建てたこと
心臓を掴んで、紐を縛って、底のない空を落ち続ける
Hot Iron
